政治にかかわっていない方にとっては、騒々しい印象しかないであろう、選挙活動。
あまり政治の世界に馴染みのない方にむけて、今回は選挙プランナーの角度から選挙のお仕事の裏側をお伝えしたいと思います^^
前哨戦
選挙に立候補することを決めた人は、選挙の告示日1カ月前くらいに事務所を立ち上げます。
でも、看板などを大っぴらに掲げられるのは選挙期間中に入ってからなので、それまでは布をかぶせたりして、看板の名前が見えないように工夫をします。
公示日前に前に準備することはたくさんあり、看板の他に旗やリーフレットなどグッズを作り、実際に選挙が始まってから選挙のお手伝いをしてくれる方(支援者)に声がけをしたり、選挙運動員を集めたりします。
もちろん、政党に所属している人であれば、党の公認や推薦をもらうために動く必要もあります。
この準備がしっかりできてるかどうかが、選挙の勝敗を分かつと言っても過言ではありません!
「〇〇党の〇〇です!」と言って選挙カーを走らせることができるのは選挙中だけです。
でも、選挙前にも選挙カーが走っているのを見たことがあるはず💡
実は、選挙前にも宣伝車という名目で、小出しに名前を差しはさみながら車を走らせることは可能。
車に名前の入った看板を出すことは禁止されていますので、政党の名前にしたり、もしくはキャッチフレーズやイメージキャラクターなどでアピールしつつ、「立候補する予定の●●です」と名前を売り込み、宣伝してまわります。
これらすべての行為のことを前哨戦と呼びます。
選挙スタッフの手配
選挙のお手伝いは、基本的にボランティアです。
でも、完全に無給というわけではなく、一定の報酬が支払われる人もいます。
選挙に関わる人たちは多岐にわたります。
地元の支援者の方々もいらっしゃいますし、学生さんもいます。※ただし20歳以上!!
そして、選挙のプロもいます。
報酬が支払われるのは、事務スタッフや選挙運動員として、選挙管理委員会に名前を登録した人のみ。
ですから、選挙に携わる方は必ず身元を明かして、名前を申告します。
知り合いの紹介などで人を集める場合もありますし、人材派遣会社にお願いしてスタッフを募る場合もあります。
選挙期間中に、有権者の家に電話をかけて投票を呼び掛ける活動員も事務スタッフの一員。
大きな選挙だと関わっている人数が100人を超えることもあります!!
わたしも最初は、事務所から「うぐいす嬢」の依頼を受けてこの世界に足を踏み入れました。
その後、うぐいす嬢ではベテランの域に入り、最近では選挙プランナーのお仕事をお引き受けすることも増えています。
事務員の報酬
事務所内の切り盛りをする方々は事務スタッフと秘書さんです。
現職の議員であれば既に自分の秘書を持っている人もいると思いますが、そうでない場合には、政党つながりで先輩議員の百戦錬磨の秘書が手伝ってくれることもあります。
親族が事務スタッフをする場合は無報酬ですが、雇われた事務方さんたちには、1日1万円の日当が支払われます。
応援弁士の手配から、走行ルートの選定。
個人演説会の場所確保や対陣候補の動向チェックや支援者たちへの気遣いなど。
仕事内容は多岐にわたり、大変な激務です。
選挙活動は大人の就職活動であり、落選したら無職の人もいるわけで、真剣勝負の世界です。
いったん選挙が始まれば、選挙事務所は朝7時から24時くらいまで開きっぱなしということも多く、それが毎日続くと当然疲労もたまります。
選挙期間が長引いてくると皆疲れが出てくるのとともに、切羽詰まっても来ますので人間の本性が出てきます。
初日は、物腰の柔らかい、笑顔のすてきな優しいひとだったのに・・・・選挙中盤からは人が変わったように鬼になった(涙)ということは数知れず。
選挙活動は短期決戦ですが、本気の闘いですから、それはそれは相当のストレスを要する仕事と言えます。
選挙カーのドライバーの報酬
選挙カーを走らせられるのは、選挙期間中の朝8時から夜の20時までの12時間。
12時間を一人の運転手でまかなう過酷な事務所もあれば、午前と午後で交代制にする選挙事務所もあります。
運転していると「2時間経過しました。休憩を取りませんか?」などと気の利いたアナウンスがカーナビから聞こえてくることがありますが、そんな声はなんのその。
走って、走って、走り倒します!!
公職選挙法にのっとって国から支払われるドライバーの1日の報酬は、12500円。
事故を起こしたら責任問題だし、道にも詳しくなくちゃいけないし、かなり大変な仕事です。
しかも、選挙カーは時速30キロ程度の低速走行を1日中続けますから、運転するのは普通よりもずっと疲れます。
常に、後続ドライバーに迷惑をかけているというプレッシャーを一身に背負いながらも使命のために低速走行を貫かねばならないのです。
とにかく、路地という路地を知っている人の方が良いので、地元の人が抜擢されるケースが多いです。
また、運転手とは別に道案内の人が同乗するケースも多いです。
なぜなら、同じ道を通らずにくまなく走り続けるのは、運転しながらだと意外と難しいからです。
運転手も道案内の人も選挙カーに乗っている以上は立候補者側の人間ですから、道行く人が手を振ってくれたら振り返し、時には、候補者の代わりに握手をしたり、笑顔を振りまいたりと大変です。
ウグイス嬢の報酬
ウグイス嬢の労働時間は、基本的には選挙カーを走らせても良い時間になるので、朝8時から20時までです。
ドライバー同様に、交代制のところもあれば、通し勤務の事務所もあります。
国で規定されている、うぐいす嬢の1日の報酬は、15000円です。
ドライバーさんもウグイス嬢も記載した金額は法廷金額であり、さじ加減は事務所にありますので、好待遇のところもあればその逆も存在します。
また、マイクを使う時には必ず許可証の旗を掲示する決まりがありますので、これを積んでいない選挙カーで候補者の名前を言ってしまったら、即公職選挙法違反で立候補取り消しになるばかりか、選挙カーに乗っていたメンバー全員が違反行為に加担したとされ、警察に連れていかれることもありますので、注意が必要です。
選挙カーを離れて、メガホンを使って広報活動をするケースもありますが、その場合もマイクを使えるのは、選挙カーかメガホンかどちらか一カ所と定められており、旗を掲げる決まりです。
その他運動員
選挙に関わる人たちは、まだまだいます。
リーフレットを配ったり、選挙カーに乗って手を振る人なども運動員です。
リーフレットを配るなど、選挙活動にかかわる人たちは全て腕章をつけなくてはいけない規則です。
また、マイクを持ってしゃべるウグイス嬢、選挙カーを走らせる運転手、道案内の人、手を振る人など、選挙カーに同乗する人たちのことは「車上運動員」と呼び、それぞれの内容の腕章をつけなくては違法です。
公職選挙法違反は、かなり厳しいです。
というのも、落選した議員から腹いせに密告されると当選剥奪になるおそれがあり、それによって落選者が繰り上げ当選になることもあるからです。
まさしく、下克上!
選挙は、現代における天下別れの関ヶ原です!!
最も忙しい選挙初日にすること
・朝8時になると選挙カーを走らせて届け出を出しに行きます。
※例えば、都議選の届け出場所は、選出場所の区役所や市役所です。
・マイクが使えるようになってから事務所前などで出陣式を行い、所信表明をします。
・選挙区内に散らばっている選挙の広報掲示板にくまなくポスターを貼りに行きます。
・選挙カーでの遊説活動スタート!
・駅前で演説を行いたい場合には場所取りが必要な事もあり、事務所の車(自家用車など)で一等地が空くまで何時間も張っていたりします。
・選挙区にお住いの方々に電話かけスタートし「宜しくお願いいたします」とアピール。
・これから配ることになるリーフレットに選挙管理委員会のシールを貼る
※衆議院で7万枚、参議院で25万枚、都道府県知事で 10万枚
選挙期間中の時間外の活動
さきほど、朝8時から夜20時までしか選挙の広報宣伝活動をしてはいけないことをお伝えしましたが、マイクを使わない活動はその限りではありません。
例えば、朝6時から駅前に立って候補者がたすきをかけて「いってらっしゃいませ」と肉声で挨拶することや
深夜まで駅前で「お帰りなさいませ」と立ちんぼして有権者の帰りを待つことなどは法律で禁止されてはいません。
ただし、効果があるかどうかは不明です。
酔っ払いに「うるさい!」と罵声を浴びせられるなどしている姿はよく見られます。
こういった心理作戦は、候補者の年齢やキャラによって、効果がある場合と逆効果な場合があると思いますので、そのあたりの見極めが大切です。
本来、現職の議員であれば、任期中の仕事を評価されて再選されるのがベストです。
しかし、新人候補や目立った仕事が無い候補者などは、なんとかして選挙期間中にアピールし、名前を覚えてもらわなくてはいけないし、政策も聞いてもらいたいので、なりふり構ってはいられないのが実情です。
わたしは、選挙に関わる身ではありますが、現在の選挙のやり方には疑問符をつけたくなります。
興味のある人は最初から投票する人を心に決めているし、興味のない人は、いくら活動をしたって耳を貸しはしないだろうからです。
投票だってそうです。
期日前投票が浸透したり、投票時間が伸びたことで、選挙に行きやすくなったものの、やはり「選挙に一度も行ったことが無い」という人も多くいます。
そういった無党派層が投票したくなるような現代に即した選挙の方法が、一刻も早くスタートされることを望みます。
選挙プランナーの仕事
選挙のやり方に、正解はありません。
結果として当選できれば、それが間違いではなかったことが証明されるだけです。
わたしが選挙プランナーを依頼されるのは、まったくの無所属で、初めて立候補するといった人が多いです。
右も左もわからない状況で、届け出を出しただけ・・といった状態💡
そこから、好感度の高まるスーツを選び、ネクタイをコーディネートし、ポスターに使う写真を選ぶところから始まります。
当日はどれだけの人が手伝ってくれそうなのかを聞き、足りなければ集め、シフトを作ってスケジュールを組みます。
食事は、朝昼晩と3食必要なので、経費と相談しながら見積もりを出します。
お辞儀の角度、握手する時の目線、握手の強さにはじまり、スピーチライターも兼ねて、演説の内容を練ったりもします。
何度も何度も練習します🎤
その地域で問題視されていることは何か、当選したら何がしたいのか、自分なら何ができるとアピールするのか。
顔も名前も知らない人たちに、自分の心意気を伝えるには、見た目としゃべる内容で最大限相手の心をつかむほかありません。
選挙歴10回くらいのベテラン議員は、こぞって演説がうまいです。(たまに例外もあり)
そういう人たちに勝つためには、一般人の目線でどう伝えるのが効果的なのか。
戦略を立て、キャッチフレーズを考え、イメージをどう打ち出すのかを考えます。
私は、選挙プランナーではなく、選挙のスピーチライターを頼まれることもありますが、毎日敵陣の動きや党首の動向を見て、世論の反応を敏感に察知しながらスピーチに盛り込むので、実際に自分が喋るわけではありませんが、一心同体で、精神的に張りつめた感じになります。
電通や博報堂など
有名な候補者の選挙プランニングには、電通や博報堂など大手広告代理店がからむことも珍しくありません。
ネクタイの色や柄までコーディネーターがアドバイスし、好感度を上げるために一役買います。
また、立候補するタイミングや演説内容、キャッチコピーなども選挙プランナーが手掛けています。
しっかり練りに練られたものを作り上げているんです。
選挙プランナーの責任
選挙プランナーは、全てのことが滞りなく進み、当選に一歩でも近づけるように采配をふるっていきます。
候補者を含めすべてのスタッフが疲労で倒れないよう目を配ったり、適材適所を見極めるなど全体像を把握します。
日々の運行スケジュールを考え、毎日変わる戦況を読んで、戦略を練りなおします。
繰り返しになりますが、終盤戦になると皆血走ってくるのでまとめるのも大変ですし、時間も長いし、かかわる人数も多いので連絡体制も崩れがち。
でも、当選した時の一体感と充実感は何物にも代えがたいものがあります。
そして、自分が関わった議員さんが、区議→都議などと世界を広げていかれる姿を拝見すると喜びもひとしおです。
何よりも当選第一。
そこから全てが始まるんですから。
まずは、当選を果たさなくては何事も始まらない。
選挙プランナーには、周りを巻き込んでいく、弁の経つ人が多いです。
特に、立候補者が頼りない感じの場合ほど、プランナーが代わりに演説をふるって、事務所の空気感を変えている姿を見かけます。
正解への道筋が十人十色な世界で、選挙期間中のチームをまとめ上げるのに必要なのは、意外と夢を熱く語るファイター的要素なのかもしれませんね。
選挙プランナーは、ひとりの人の人生を背負う覚悟を持って取り組まなくてはならない、大変な仕事です。
でも、1票1票の積み重ねで当選を果たせた時の喜びを候補者と同じだけのボリュームで味わえる仕事でもあります。
候補者本人以上に、候補者のことを信じられる人だけにできる仕事だと思います。